アップルvsサムスン知財高裁大合議事件が投げかけるもの

米国アップル社(以下、アップル)と韓国サムスン電子(以下、サムスン)が世界中で特許訴訟を繰り広げていることは皆さんご存知でしょう。米国カリフォルニア州の連邦地裁は今年5月2日、サムスンに対して約1億2千万ドル(約122億円)の賠償金をアップルに支払うように命じる評決を出しました。この事件は、サムスンのGalaxy端末がアップルのiPhoneのデザインを真似たものであるとして損害賠償を求めたものでした。

そして日本では、アップルからサムスンに対して、アップルが販売するiPhoneやiPadがサムスン特許による損害賠償請求の対象にならないことの確認を求めるという少し変わった訴訟が提起されています。自社の特許を相手が侵害しているとして訴えるのではなく、逆に相手方の特許によって自社が損害賠償を請求されないことを確認する「債務不存在確認請求」を裁判で求めることもできるのです。このサムスン特許は音声をパケットデータで送受信するVoIP技術に関するもので、ヘッダーのデータフィールドの無駄を削減して送受信効率を改善するという第3世代(3G)の移動通信や携帯電話システムで各社に標準的に採用されている技術です。

この訴訟の控訴審判決が5月16日に知財高裁で出されました。判決の要旨が同日に知財高裁のHPで公開されたため、ニュース等でご覧になった方も多いと思います。5月末に最高裁判所のサイトで判決文の全文も公開されました。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140523133019.pdf

 

改めて今回の事件の争点を振り返ってみたいと思います。

今回の控訴審判決の元になる東京地裁でおこなわれた原審でアップルは幾つかの主張をしています。主な争点は『サムスンはこの特許についてFRAND宣言(※)しているにもかかわらず誠実にライセンス交渉を行っていないから、そのような特許権によって損害賠償請求するのは権利の濫用である』というものです。権利の濫用というのは民法第1条に定められた一般原則です。

(※)FRAND宣言というのは、標準規格に採用された特許をどの会社にも(たとえライバル会社であっても)公正にライセンスしますと宣言することをいいます。FRANDとは、「Fair(公平), Reasonable(妥当), And(かつ) Non-Discriminatory(非差別的な)」の略です。スマートフォンなどの電気通信機器には世界中の企業の多数の特許が絡み合っていますので、標準規格に採用された特許を低廉なライセンス料で相互に利用しあえるように国際ルールが作られています。技術を標準化することで製品の互換性が高まるのでユーザには大きなメリットがありますし、メーカーにとっても開発費用を抑えられて製品を普及させやすいというメリットがあります。

 

東京地裁でおこなわれた原審ではアップルの主張が全面的に採用され、サムスンはアップルに対して誠実に交渉を行うべき信義則上の義務に違反しているとして損害賠償請求することは権利の濫用権であって認められないと判断されました。

そして今回出された知財高裁(飯村敏明裁判長)の控訴審判決では、この判断を変更してサムスンに損害賠償請求権が有ることを認めました。

しかし、その損害賠償額は、なんと995万円という低額でした。アメリカの訴訟でアップルに認められた賠償額の1000分の1以下です。iPhoneやiPadの販売額や利益額からすると無視できると言っても過言ではない金額でしょう。また、サムスン特許に基づくiPhoneやiPadの差止請求の仮処分も認めませんでした。つまり、判決の主文ではサムスン(控訴人)が勝利したようにも読めますが、実質的にはアップルの全面勝訴といって良い判決です。

知財高裁は、アップルとサムスンとの交渉経緯からすると、サムスンがFRAND宣言していたとしてもアップルとの間でライセンス契約が成立していたとまではいえないとして、サムスンが損害賠償を請求できると判断しました。しかし、その賠償額はFRAND条件の低廉なライセンス料相当額までであって、それを超えるものではないと判断しました。そして、サムスンが自らの意思でFRAND宣言した以上、その特許によってアップルのiPhoneやiPadの販売を差し止めることは認められないと併せて判断しました。ライセンス条件についての折り合いは付いていなかったものの、サムスンはFRAND宣言をしたわけですから、損害賠償額がFRAND条件の低廉な額に留まることや販売差止が認められないことは妥当な判断であると思います。

 

今回の知財高裁判決ではFRAND条件でのライセンス料相当額の具体的な計算方法まで示したところが目を引きます。一般的な損害額の計算方法は、対象製品の売上高そのものに対してライセンス料率を乗じるという単純なものです。これに対し、知財高裁は、

FRAND条件でのライセンス料=(1)製品の売上高×(2)標準規格に準拠していることの貢献比率×(3)必須特許全件の累積ロイヤリティ比率×(4)対象特許の貢献度

に基づいて算出するという基準を示しました。

この計算式によると、iPhoneやiPadのように製品の売上高(1)がいかに大きくても、標準規格に準拠していることによる売上への貢献比率(2)はその一部であり、そして必須特許全件を合わせた累積ロイヤリティ比率(3)は5%程度であって、さらにサムスン特許はその他の500件以上の必須特許のうちの1つにすぎず貢献度(4)は1/500程度であるとして、損害額は995万円と僅かな金額になってしまいました。

 

米国カリフォルニア州の連邦地裁で争われた事案とは国も製品も特許も異なるので単純比較はできませんが、製品デザインの特許を侵害したことに対する損害賠償額が100億円以上であるのに対して通信技術の必須特許を利用するライセンス料が1000万円以下という圧倒的な格差が出たわけですから今後の電機通信メーカー各社の開発や販売の方針に何らかのメッセージを投げかけます。

この計算式によれば、標準規格の必須特許の数が増えれば増えるほど1件あたりのライセンス料は逓減していきます。今回の判決では3G移動通信(UMTS)の必須特許として529件が認定されましたが、この数が倍の1000件になれば1件あたりの特許の貢献度(4)は半分になってしまいます。3G移動通信に限らず、標準規格の必須特許に認められるためには多くの開発投資をして厳しい認定をクリアする必要があるはずですが、その価値は徐々に薄まっていきます。製品ユーザにとっては特許料が高額になって製品価格に転嫁されることは困りますが、しかし便利な機能が多く標準搭載されることでどの端末を購入してもある程度の使い勝手が得られるメリットがあるわけですから、各社による標準技術の開発競争のインセンティブは是非とも失われないでほしいところです。

今回の知財高裁判決をきっかけとして、有用な技術の特許は安易にFRAND宣言せずに戦略的に抱え込むという時代に変化していくかもしれません。また製品やパッケージのデザインやユーザインタフェースなど製品の売り上げに貢献していると認められ易いテーマの開発が益々盛んになっていくかもしれません。

最高裁判決や知財高裁の大合議判決は、いつも社会に何らかのメッセージを投げかけます。知的財産を生み出し、そして保護していく立場の人々(おそらく皆さんもそうでしょう)にとって、今回の判決は自社やクライアント企業の事業戦略と知財活動を改めて結びつけて見直す良い機会になると思います。

 

知財キャリアセンターからのコメント
話題のアップルとサムスンの知財高裁大合議判決について弁理士の方から寄稿頂きました。
一つの製品に使われる技術が数多くなっていく中で標準技術の開発競争のインセンティブがどのように保たれていくのかは興味深いところです。


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