特許事務所の求人で求められること|弁理士・特許技術者編(2)
特許事務所の弁理士・特許技術者向け求人において採用者が候補者にどんなことを求めているのか、実際に特許事務所の所長様や採用担当者様から要望を聞く立場にある転職コンサルタントが特許事務所の求人で求められることをまとめました。弁理士・特許技術者編(2)では、求職者を経験者と未経験者にわけ、それぞれに求められることについて整理します。
経験者と未経験者を分ける経験とは
経験者、未経験者といいますが、そもそもなんの経験をもって経験者と未経験者をわけるのでしょうか。すでに特許事務所で働いている方はご存知だと思いますが、企業の知的財産関係の部署など特許事務所以外で知的財産に関わる仕事をしている方やそもそも特許や知的財産の仕事に馴染みのない方にはわからない方もいらっしゃるかと思います。
特許事務所の求人で経験者という時、それは特許事務所で相当年数、明細書の作成と中間処理の実務を経験している人のことをいいます。多くは3年以上の実務経験を求めます。これは、自身で書いた明細書に対する中間処理を経験するには最低それくらいの年数が必要になるためかと思われます。
それ以外の、例えば企業の研究職の方が自身の発明について特許を出願したですとか、企業の知的財産担当者が発明の発掘や特許出願の管理をしていたということは、もちろん未経験者としての応募では歓迎される経験ですが、経験者とはみなされません。新たに特許事務所へ転職しようと考えていらっしゃる方はこの点しっかり認識した上で転職活動を進められると良いかと思います。
経験者・未経験者に共通して求められること
経験者・未経験者に共通して最も重視されるのは技術分野の一致です。特許事務所は採用後にこれまでの経験・能力を活かしてもらいやすいよう、担当して貰う予定の技術分野の経験・バックグラウンドを持った候補者を求めています。
分野の指定はおおまかに例えば化学分野というものから、無機化学の〇〇素材のようにかなり絞り込んだものまで様々です。一致の度合いについても、もともとの技術的なバックグラウンド(学生時代の専攻や、企業での研究開発経験)と特許事務所でのその分野での経験が必要というものから、その分野の技術を扱うのに抵抗がないといった程度まで、これまた様々です。
特に中小規模の特許事務所では扱う特許の分野を限定して尖らせる戦略をとるところもあり、かなり絞り込んだ技術分野の指定を行うところもあります。一方で同じく中小規模の特許事務所でも様々な技術分野を扱うために、1人の担当者が柔軟に広い分野を扱うことを求める場合もあります。 自身の専門性をどのように活かしていくかを考え、応募する特許事務所が技術分野と専門性についてどのような態度を求めているのかを理解して転職活動を進めていくと良いでしょう。
どのような求人でも共通して求められるのは該当する技術分野に関連する学部を専攻していたなどの技術に対する基本的な理解です。昨今は技術の細分化・高度化が進み、その知的財産化においてもかなり高度な技術への理解が必要となっています。このため弁理士・特許技術者にも技術に関する高い素養が求められ、特に未経験者では、技術系の学部を卒業している、技術的な研究開発の仕事についていることが必須条件となる場合がほとんどです。もちろん特許を扱う弁理士・特許技術者の求人を前提として話しており、商標・意匠系の弁理士の求人についてはその限りではありません。この記事は特許系の弁理士及び特許技術者の求人を前提として書いています。
経験者に求められること
特許事務所の求人のうち、経験者を募集する求人で求められることについてお話します。技術分野が一致し、経験が基準を満たしていると、次に評価されるのは能力です。
知的財産関連の仕事も少しずつ多様化してきていますが、多くの特許事務所ではやはりメインの業務は特許権利化、明細書の作成と中間処理です。ですからまずは明細書作成に関する能力が見られます。経験者の場合、過去に候補者が作成した権利化されている公開公報を採用担当者に提示し、その内容で判断してもらうことが多いです。とはいえ弁理士でなければ本人の名前が入りませんし、本人の名前で公開されているものでも実際には他の方の手が入っている場合もあります。このため、面接時に公開公報の記述の意図や、内容について質問し本人の能力を測るケースも多いです。
もう一つよく重視されるのはコミュニケーション能力と業務の進め方に関する柔軟性です。明細書作成のためのクライアントとの打ち合わせや、クライアントから案件をもらうための営業、チームでの業務や後進の育成等、業務の中でコミュニケーション能力が必要な場面は多いです。派手さは必要ありませんがしっかりとコミュニケーションが取れることを面接で示すことができれば一定の評価がされます。また、特許事務所によって業務の進め方は異なります。今までの業務のやり方に強くこだわるような頑固さは敬遠されることがあります。特に候補者の年齢が高い場合に、能力の問題ではなく業務の進め方の問題で事務所になじめないのではないかと懸念する採用担当者は多いです。選考に臨む際にはそういった点も意識すると良いでしょう。
未経験者に求められること
技術的なバックグラウンドが条件を充足する場合、未経験者に求められるのは特許事務所での仕事に対する理解・覚悟と論理的思考力・言語抽象化能力です。
未経験者を教育するには一定のコストがかかります。時間を割いて仕事を教える必要がありますし、生産性に見合わない給与を支払わなければならない場合もあります。採用するからには頑張って1日も早く一人前になって活躍して欲しいと思うのは当然です。途中で辞めてしまったり、全く適正が合わないということになるのはお互いに不幸です。ですからミスマッチにならないために特許事務所の仕事がどんなものか知っていて欲しいと思いますし、ここでずっと頑張っていくんだという覚悟が伝わってくるほうが安心します。
その上でよい明細書を作成できるようになるために論理的思考力・言語抽象化能力が求められます。これを測るために何かを説明する文章を書かせるなどの試験を行う特許事務所も多いです。これを地頭のよさと読み替えて、ある程度偏差値の高い大学の出身者を優先して採用する特許事務所もあります。同様に弁理士試験に合格済みであることも一定の評価を受ける場合があります。この点については確立された評価手法がなく、特許事務所によって評価の仕方も様々です。
未経験者の方は応募しようとする特許事務所に所属する弁理士の公開公報をいくつか読んでおくと良いと思います。特許事務所での弁理士の仕事についての理解が深まりますし、明細書作成のための考え方に多少なりとも触れることができるでしょう。また、応募しようとする特許事務所の所長やパートナーの著書や記事があるかどうか調べて読んでおいてもいいかもしれません。
以上、特許事務所の弁理士・特許技術者求人に応募する候補者に求められることについて書いてきました。英語力や給与水準の話などすべてを網羅できているわけではありませんが、皆様の転職活動の参考になりますと幸いです。